猟盤日記20180921

カタコトレコードの重要案件の入手に成功。

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アイク・コール / 日本のヒット曲を唄う

常盤響さんのレコ部で初めて聴いて以来、ずっと探し続けた一枚。アイクはナット・キング・コールの12歳下の弟で、朝鮮戦争時に従軍バンドのドラマーを務めた後、シカゴでジャズトリオのピアニストとして活動。兄の死後なぜか日本で歌謡曲歌手としてデビューし、マンダムのCMソングでお茶の間の注目を集める。ライナーには、突然ナット・コールの弟と名乗る男が現れたことでニセモノと疑う声が上がった事が書かれている。しかしその静かで優しい歌声は、聴くものの心を掴んで離さない魅力に満ちている。五木ひろしの「長崎から船にのって」のカバーは、丁寧に日本語の歌詞を歌おうとするアイクの様子が思わず微笑まざるを得ないファニーさを湛えている。なんといっても白眉は井上順之の「お世話になりました」のカバー。インチキ臭いプロモーターに口八丁手八丁でシカゴから連れてこられたアイクは、「お前ナットキングコールの弟なんやったら、ピアノ弾いとらんと歌えや」とパンチパーマの芸能事務所社長に迫られ、ワケも分からずレコーディング。ワイドショーに取り上げられテレビの歌番組などに出演するも、やがて飽きられて仕事の中心は地方のスナック営業に。心優しいアイクはヤクザ社長に逆らうことなく、黙々と仕事をこなしていった。住居は下町の安アパート。言葉は通じないながらもアイクに色々と世話を焼く大家のおばさんと、最初は怖かったがそのうち「魚の食べ方がうまくなった」と褒めてくれるようになった定食屋の親父さんの優しさだけがアイクの心の支えだった。そんなある日、長らく口もきいていなかったもう一人の兄のフレディからの国際電話が。フレディは一言「アイク、何も言わずにシカゴに帰ってこい」と告げた。西日のさす部屋で1人ワンカップを飲み干したアイクは、荷物をシカゴに送り身支度を整える。そうして大家のおばさんと定食屋の親父さんに拙い日本語で「オセワニナリマシタ」と深々とお辞儀をした。親父さんは仕込みが忙しいフリをして一度もアイクの方を振り向かなかった。そしてアイクは坂の上から望む街並みにもう一度深々と頭を下げ、一人東京の町を後にした。そんな光景が目に浮かびます。

 

連休最終日、9/24はこちら。ゲストは根本敬さんです。

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